第3回 対象(2) 言語学から
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1. 言語学とは
他の研究領域との学際的な研究との関係を強調
各言語に応じた下位領域が存在
日本語学、英語学
ここでは「言語の構造と機能とに関する科学的研究」と定義しておく 言語の構造
言語の仕組みのこと
音声や文字という媒体を取ることで、その存在を知ることができる
起源が不明
いつの間にか、人間が使っている言語
形式が定式化されている言語
言語はどの単位から成り立っているか?
単位
「音声」「音素」「形態素」「語」「文」「文章」「談話」「文字」
単位ごとに研究領域が存在
それぞれ心理学的な観点からの研究も蓄積されている
言語の機能
言語の働きのこと
心理学的な観点からの説明
伝達や表現
言語学的な観点からの説明
言語的な判断
ある言語表現が正しい表現であると言えるか否かを判断することができるとか、
ある言語表現が何の音に聞こえるかが分かるとか、
何の文字であるか分かるなど
2. 記号としての言語
言語学との関連が深い研究領域
言語を3つに区別
「言語活動一般」や「言語能力」そのもの
「人間」の特徴としての「言語」
ランガージュがそれぞれの社会(正確には言語共同体)において社会的規約の体系として実現された言語のこと ランガージュとラングの英語訳はlanguageになってしまい混乱を招く
ランガージュ: language
ラング: a language, the language, languages
ラングに基づいて実際に発せられた具体的な音の連続の「発話」 「統合関係」対「連合関係」
話された言葉の繋がりを、その要素どうしの関係として捉えること
例
「今日はやく起きる」
「今日」「はやく」「起きる」という要素間の関係
「起きる」
「起き」「る」
そこに現れている要素と現れていない要素との関係として捉えること
例
「今日 はやく 起きる」
明日 ゆっくり 寝る
来週 すぐに 発つ
「起きる」
寝た
発ちます
記号(表現しているもの)と、物理的な世界(表現されているもの)とが対応している
例「今日はやく起きる」
「「今日」という日の「はやく」という時間に「起きる」という行動をした」
記号内容
シニフィアンとシニフィエとの関係はたまたまそのような関係にあると言われる
必然的な理由があってそのような関係になっているのではない
日本語では「今日」英語では「today」、物理的な世界との関係は必然的なものではない
「今日」は連合関係としてあげた「明日」や「来週」とは異なり、「今日」ということが区別されている
「今日」と「今日以外」とに違いがあるということ
音自体は文字通り物理的な性質として記述することができるが、それぞれの言語毎に有限個の音のみが区別されている
e.g. 日本語では/r/と/l/おに相当する音の区別はされていないが、他の多くの言語では区別されている
差異によって区別して、何らかの集まりを作ること
人間の言語では、音による分節と、語による分節とがされている 音と語を組み合わせて無限に言語を作り出していくことができる
3. 音声学 phonetics と音韻論 phonology
話し言葉の媒体としての実質を担っている
「音声」の物理的な性質を明らかにする
「音声」がどのような構造(発声器官)によって実際に発声されるのかを分析する
発声された言語音がどのように聞き手によって認識されるのかを分析する
言語音の物理的特性に焦点をあてた音声学に対して、言語音の機能的特性によって音素(phoneme)と呼ばれる言語語の最小の単位に基づいて、言語音にアプローチしている 例えば、物理的な音声としては側面音[l]でもふるえ音[r]でも、音素としては/r/で十分に日本語としては機能している 日本語の言語音
母音および母音・子音の組み合わせでまとまりとみなされる
音の長さによって区切られる
「さん/び/き」の3音節
「さ|ん|び|き」の4モーラ
このようなモーラを持つ言語は少ないとしている
4. 文法 grammar と形態論 morphology・統語論 syntax・文章論
形態素や語という単位になると、意味との関連が検討対象になってくる
単語から「文」が作られ、文が集まって「文章」が組み立てられることになる
細かい単位が集まって大きな単位が組み立てられる際の一定の規則
語の構造を研究する
文章の構造を研究する
そもそも語を定義するのが難しい
当該の語が「意味されているもの(シニフィエ)」をどのように捉えるかによって、語の定義の仕方が異なってしまう
「放送大学」「放送」「大学」
意味を持つ最小の単位
今日はやく起きる
語: 「今日」「はやく」「起きる」
「起きる」の形態素: 「起き」(動作を表す) + 「る」(状態を表す)
「起きる」は「起きる・起きた・起きよう…」といった中心となる1つのものの異なった形の1つの形をとったと考えられる
この中心となる1つのもののこと
table: 斎藤, 2010の例
形態素 語彙素 語
やま 1 1 1
ヤマネコ 2 1 1
頭が痛い(=困った) 4 1 3
語を定義するのが難しいが「単語」というように曖昧ながらも区別されて実際に使用されていることは認めざるをえない
語は内容語 vs 機能語に区別される
語彙的な意味を持つ語
文法的な意味を持つ語
代名詞・前置詞・接続詞・助動詞・冠詞など
内容語に接辞がついて文法的な意味を表す言語
日本語など
語は語彙的意味のみを持ち、語順で文法的な意味を表している言語
中国語や現代英語など
語彙的な意味と文法的な意味とが融合している言語
ドイツ語やロシア語など
文の定義も容易ではない
日本語の書き言葉であれば、句点(。)で区切られたものと定義することはできるだろう
文を構成する要素
構成素は統語的な性質を担っている
名詞、動詞、形容詞、副詞、前置詞・後置詞など
名詞句、動詞句、形容詞句、前置詞・後置詞句など
「太郎と花子のお父さんが映画を見た」
曖昧な文であるが構造を示すことで文の意味を明示できる
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文の構造を検討する考え方
様々な文法理論が提唱されている
文法理論によって、構造の示し方は異なってくる
生成文法の最新の研究成果をフォローするのは極めて困難である
ここで示した樹形図は言語の表層構造(外から見える構造)を示しているに過ぎない それぞれがそれぞれを含んで研究されているとも言える
文章は、文を連ねてつくられた、意味の(より大きな)まとまりをもった単位と書いたが、この「意味のまとまり」のこと
テクスト性の内、形式に関わること
テクスト性の内、内容に関わること
例「今日 はやく 起きる」「明日 ゆっくり 寝る」「来週 すぐに 発つ」
結束性
同じ形式の文の連なりであるとは言える
文の間に接続表現を入れて「今日はやく起きた」「けれど」「明日ゆっくり寝る」というような表現を取ることもできる
読み手・聞き手がそのような接続詞を補ってしまうこともあるだろう
話し手の「独白」とか「決意」といったような「主題」や「視点」を導入することも可能
この3文が全体構造を示していると解釈することもできるだろう
一貫性
この例では「時間」と「行動」という内容が表現されており、上のような解釈を促進しているということもある
5. 意味論 semantics・語用論 pragmatics
やはり「意味」を定義するのは困難
ある種のイメージや概念ということで、「意味されているもの(シニフィエ)」と反語反復的になるが捉えておくしかないであろう
意味は、語のレベルから、句・文のレベル、文章のレベルで捉えることができる
いずれも心理学や言語心理学での研究対象
心理学者のオズグッドによって1950年代に開発された 単語レベルの意味
意味論には2つの立場がある
人間抜きに(実際の言語使用を考慮しないで)、言語外の世界にはある種の秩序があり、それが言語という記号に反映していると捉えている
意味は人間の中にあり、言語はその概念を示していると捉えている
この研究から見いだされたいくつかの概念
人間はまわりのものをいくつかのカテゴリーに分類して、言葉で表している そもそもカテゴリーは客観的に定義することができる
カテゴリー間には明確な境界があり、カテゴリーのメンバーは共通する属性で記述することができる
しかし、カテゴリーの定義は人間の生活に関連している
あるカテゴリーにおいて、それを代表するメンバー
動物に関する名詞の例
イヌ、ネコ、カエルなどが一般的で習得されやすく使用頻度が高い
動物学的な概念としては「生物>動物>哺乳類>ネコ>ペルシャネコ」となっている
ネコというレベルでの語彙が多い(基本レベル)
上位の概念の方が数は多いが語は少ないと言われる
人間は新しい事態を表す際には比喩を使うことも知られている
より抽象的な概念をより具体的な概念で理解しようということで、人間の認知の特性と考えられているということ
以上のように意味を検討していくと人間の認知はその言語に依存していると考えることも可能になってくる
文脈を正面から対象にしている研究領域
語用論での研究テーマ
遂行される発話行為を以下のように区別できる
例(締め切り後に)「レポートは明日必ず提出します」
音声的にも文法的にも正しく発して文字通りの意味を伝える(発話行為)ばかりでなく
聞き手に対する「約束」という行為(発話内行為)をしており
聞き手に対して「安心」をもたらす(発話媒介行為)
グライスは会話において、言内の意味ばかりでなく言外の意味も解釈されるのは、話し手が協調の原理とそれを具体化した4つの会話の格率とに従っていると考えた 必要な情報量の発話のみをして、それ以上のことは言わない
偽と分かっていること、根拠のないことを言わない
関係ないことを言わない
簡潔で明瞭に、順序立てて言う
これらの格率に従わないと、言外の意味=含意が生じると言われる 2つの原理
人間の認知は関連性を最大にするように調整される
最小の努力で最大の効果を得るような処理を行う
明示的な伝達行為を行う時には、話し手は自分の発話から聞き手が努力なしに十分な文脈効果を得ることができることを伝える
意味は次の3つを区別
語彙や文法など表現そのものからのみ得られる意味
表現そのものとコンテクストから得られる意味で、言語的意味を拡充したもの 表現そのものと、コンテクストから推論によって得られる意味 会話とは情報伝達の行為と同時に、相手との人間関係に配慮しながら行われる
他者の負担を最小に、他者の利益を最大に
自分の利益を最小に、自分の負担を最大に
他者の非難を最小に、他者の賞賛を最大に
自分の賞賛を最小に、自分の非難を最大に
自分と他者との意見の不一致を最小に、意見の一致を最大に
自分と他者との反感を最小に、共感を最大に
会話の進展や構造を、会話の詳細な観察から帰納しようというもの
話者交代、会話の開始と終了の仕方、言い直し、などを観察し、そこにルール、仕組みがあることなどが見出されている
6. 文字論
紙などに書かれる線からなるもの
書き言葉の媒体としての実質を担っている
話し言葉のみの、文字を持たない言語もある
文字の歴史に関する研究
日本語では、文字は独自発明されずに、支那から漢字を取り入れるばかりか仮名を作ったと言われる 文字の機能に関する研究
文字の性格といった研究テーマから、文字と文字との関係といったテーマまでさまざま
心理学や心理言語学として研究との関連も深い
文字の種類
7. 「新しい言語学」について
滝浦(2018)
「少し大胆な言い方が許されるなら」
「旧言語学」
チョムスキーまでの言語学
「人間と人間の文化の特別かつ普遍的な仕組み」を研究対象にしてきた
「新しい言語学」
「心理学的能力や社会的コミュニケーション能力の結実したものとして言語を捉える」
斎藤, 2010は音韻論・意味論がラングを、音声論・語用論がパロールを研究対象としている ド・ソシュールはラングが言語学の研究対象であるとしていたが、チョムスキーの生成文法はランガージュをも研究対象としていたとみなすことができるだろう
一方で、語用論以外の「認知言語学」「言語習得論」「談話分析」「会話分析」社会言語学」はパロールを研究対象としていると捉えることができるだろう
このような研究対象の揺れは、研究方法の進展ということが関連していると言えるだろう
ICTの進展によって、生の言語データを記録し、分析することができるようになったばかりでなく、その分析手法自体を支援するICTを利用した各種のシステムが提案されてきている 実際に人間によって使われている生の言語に関する研究もまた進展してきている